モチノキ目 chevron_right モチノキ科 chevron_right モチノキ属 chevron_right モチノキ
モチノキ
Ilex integra

 東北地方南部から四国、九州、沖縄までの沿岸部に自生している樹高が10mになる高木です。樹皮は平滑で皮目が目立つ灰白色ですが、藻類が付着して橙色に染まったような個体もあります。若い枝は緑色で稜があります。常緑の葉は葉身が4〜7cmの楕円形で、側脈が明確ではありません。全縁ですが、幼木の葉には細かく鋭い鋸歯が存在しています。葉の表裏表面にはクチクラ層と呼ばれるワックスが発達していて塩害や乾燥から葉を守っています。前年枝の葉腋から蕾を出し、黄緑色の花弁が4枚ある径が8mmの花を4月に咲かせます。当種は雌雄異株で、雌花には退化した雄しべが4本残っています。モチノキは性転換、つまり同じ個体で雌花を咲かせる年、雄花を咲かせる年があることがわかっています。11〜12月になると直径10mmほどの球形もしくは楕円形の果実が赤く熟し、その姿は遠くからでもよく目立ちます。[1][2]

寄生

 冬場に赤く熟した果実はその時期の鳥にとって貴重な食料であり、モチノキにとって種子を散布してくれる鳥はありがたい協力者です。その果実を利用している昆虫もいくつか存在します。1つはハエ目ミバエ科のモチノキハマダラミバエ(Prochetostoma expandens)です。成虫の体長が5mm前後と小さいこのミバエは、モチノキの果皮下に卵を産みつけます。孵化した幼虫は果肉を食べて成長し、寄生された果実は秋に落下。幼虫はそこから這い出して蛹を作り翌年の春に羽化する、という一化性のサイクルを繰り返します。もう1つはハチ目オナガコバチ科のモチノキタネオナガコバチ(Macrodasyceras hirsutum)です。こちらも体長は5mmほどですが、雌は体長ほどに長い産卵管を果実に突き刺して産卵し、幼虫は種子を餌として成長します。こちらは一部年二化性で、越冬した世代は5〜6月に羽化し産卵(第一世代)。そこから成長した第一世代は8月に羽化して産卵(第二世代)しますが、一部は羽化せずに第二世代と一緒に越冬して蛹になるという変わった生態をしています。面白いのは、モチノキタネオナガコバチが寄生した果実は赤くならず、鳥に食される確率が激減するということです。また研究によると、採取したモチノキの果実345個から硬化した内果皮である核1370個を取り出して確認したところ、未受精と見られる種子が372個(27.2%)あったこと。それにも関わらずモチノキタネオナガコバチの卵が産み付けられていたのは、受精した種子998個中406個(40.7%)に対して未受精の種子372個中4個(0.01%)しかありませんでした。実験室の容器内でも受精した種子へ選択的に産卵していたことから、栄養価の高い受精した種子を果実に刺した産卵管で確認している可能性があるとのことです。また、1つの種子に重複して産卵することを避けていることもわかっています。一方でモチノキは30%近くもの未受精の種子にエネルギーを費やしているのですが、これは産卵管を果実に挿入するエネルギーをモチノキタネオナガコバチに浪費させること、および/あるいはより少ないエネルギーで赤い果実を増やすことで鳥の興味を引かせて種子が散布される確率を上げている、と考えられるとのことです。[3][4][5]

鳥黐

 モチノキ(黐の木)という名は、とりもち(鳥黐)が取れる木という意味です。8月ごろに剥いだ樹皮を水に付けて腐敗させた後、冬に入ってから冷たい水で揉み、水中で滓を洗い流し、次に80℃まで温度を上げて精製することで粘り気の強いとりもちが完成します。当種から作ったとりもちは灰色だそうです。このとりもちで昔は野鳥を捕まえていたそうですが、今は法律で禁止されています。比較的硬いものの狂いが少なく工作しやすい材質だそうですが、径が大きくないため寄木細工や象嵌細工の白色材、こまといった玩具に当種の材が用いられているとのことです。

参考文献
  1. 茂木透ら(2009)『樹に咲く花―離弁花(2)(第2版)』山と溪谷社
  2. 林将之(2014)『樹木の葉』山と溪谷社
  3. Masahiro Sueyoshi et al.(2011)"Prochetostoma expandens (Diptera: Tephritidae) sp. n., a fruit parasite of Ilex integra Thunberg (Aquifoliaceae) in Japan", Zootaxa, 2784, pp.39-50
  4. 渡辺一夫(2017)『アジサイはなぜ葉にアルミ毒を貯めるのか』築地書館
  5. Etsuro Takagi et al.(2010)"Selective oviposition in fertilized seed of Ilex integra by the wasp Macrodasyceras hirsutum (Hymenoptera: Torymidae)", European Journal of Entomology, 107(2), pp.197-202

Gallery

zoom_in

樹形

東松島市宮戸島(Mar. 21, 2023)

東北地方南部から四国、九州、沖縄までの沿岸部に自生している樹高が10mになる高木です。

zoom_in

樹形

小石川植物園(Feb. 20, 2011)

zoom_in

樹形

東松島市宮戸島(Nov. 11, 2023)

zoom_in

東松島市宮戸島(Mar. 21, 2023)

常緑の葉は葉身が4〜7cmの楕円形で、側脈が明確ではありません。

zoom_in

幼樹の葉(鋸歯)

幹の径8mm

zoom_in

雌花

東松島市宮戸島(Apr. 23, 2023)

前年枝の葉腋から蕾を出し、黄緑色の花弁が4枚ある径が8mmの花を4月に咲かせます。

zoom_in

雄花

東松島市宮戸島(Apr. 23, 2023)

zoom_in

雄花

東松島市宮戸島(Apr. 23, 2023)

zoom_in

雄花

東松島市宮戸島(Apr. 23, 2023)

zoom_in

雄花

東松島市宮戸島(Apr. 23, 2023)

zoom_in

雄花

東松島市宮戸島(Apr. 23, 2023)

zoom_in

果実

東松島市宮戸島(Oct. 14, 2023)

11〜12月になると直径10mmほどの球形もしくは楕円形の果実が赤く熟します。

zoom_in

果実

東松島市宮戸島(Oct. 14, 2023)

zoom_in

樹皮

東松島市宮戸島(Mar. 21, 2023)

樹皮は平滑で皮目が目立つ灰白色です。

Property
分 類
和名 モチノキ(黐の木)
学名 Ilex integra
モチノキ目(Aquifoliales)
モチノキ科(Aquifoliaceae)
モチノキ属(Ilex)
分布 日本、朝鮮半島
国内 本州、四国、九州、沖縄
用途 器具材
特 徴
針広 広葉樹
常落 常緑樹
樹高 高木
葉形 単葉(不分裂)
葉序 互生
葉縁 全縁/鋸歯
雌雄 雌雄異株(単性花)
Search
Family